- 公開日:2026.06.29
- 最終更新日:2026.06.29
親や配偶者など身近な方が亡くなり、遺産の中に土地や建物といった不動産が含まれている
と、現金や預貯金だけの場合に比べて、相続人同士の話し合いが複雑になりやすい傾向があり
ます。不動産はそのままの形できれいに分けることが難しく、評価額の考え方も一通りではな
いためです。このページでは、不動産を含む遺産分割の進め方や代表的な分割方法、起こりや
すいトラブル、そして手続き上の注意点について、相続にあまりなじみのない方にもわかるよ
うに整理してご説明します。
目次
1. 不動産の遺産分割のポイント
不動産が揉めやすい理由
不動産が遺産分割で問題になりやすいのには、いくつかの理由があります。まず、預貯金のよ
うに金額を単純に人数で割ることができません。一つの土地や建物を物理的に分けようとする
と、かえって使いにくくなったり、価値が下がったりすることがあります。
また、不動産には決まった「一つの価格」がありません。固定資産税の評価額、実際に売買さ
れる際の時価(実勢価格)など、複数の基準があり、どの基準を採用するかで金額が変わりま
す。不動産を取得したい相続人は低めの評価を、代わりにお金を受け取る相続人は高めの評価
を望むことが多く、この点で意見が対立しがちです。
さらに、長く暮らしてきた実家など、お金に換算しづらい思い入れが絡むことも少なくありま
せん。さらに、不動産がほぼ唯一の財産の場合には、売却する以外では分けることが不可能と
いう場合もあります。
不動産の 4 つの分割方法とそれぞれのメリット・デメリット
不動産を相続人で分ける方法には、大きく分けて「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共
有分割」の 4 つがあります。それぞれ特徴が異なりますので、不動産の状況や相続人の希望に
合わせて選ぶことになります。
現物分割
現物分割は、不動産そのものを現物の形で分ける方法です。たとえば一つの土地を分筆して複
数の相続人がそれぞれ取得したり、不動産が複数あるときに「自宅は長男、賃貸物件は次男」
というように物件ごとに分けたりします。手続きがわかりやすく、不動産を売らずに残せるの
がメリットです。一方で、それぞれの不動産や土地の価値がぴったり同じになることは少ない
ため、公平に分けることは困難になります。土地を細かく分筆すると一区画あたりが狭くなっ
て使いにくくなり、全体の価値が下がることがありますし、そもそも一棟の建物であれば物理
的に分けることはできません。
代償分割
代償分割は、特定の相続人が不動産を取得する代わりに、その人が他の相続人にお金(代償
金)を支払って差額を調整する方法です。たとえば長男が実家を取得し、相続持ち分に応じた
お金を他の兄弟姉妹へ支払う、といった形になります。不動産を売らずに残しながら取り分の
公平性を保ちやすいのがメリットです。ただし、不動産を取得する相続人にまとまった資金が
必要になります。また、代償金の額は不動産の評価額をもとに決めるため、評価額をいくらと
考えるかで揉めやすくなります。
換価分割
換価分割は、不動産を売却して現金に換え、その代金を相続人で分ける方法です。現金になる
ため分配がはっきりし、公平に分けやすいのが大きなメリットです。一方で、不動産を手放す
ことになります。売却には時間がかかり、仲介手数料や、利益が出た場合の譲渡所得税などの
費用も生じます。売却を急ぐことになるため希望価格や本来の価格で売れないというリスクも
生じます。
共有分割
共有分割は、一つの不動産を複数の相続人が共有名義のまま持ち続ける方法です。とりあえず
話し合いがまとまりやすく、不動産を売らずに残せます。ただし、後々トラブルにつながりや
すいため、慎重な検討が必要です。その理由は次の項目で説明します。
なお、共有とは、建物全体を共同で所有するというものであり、1 階は長男、2 階は次男などの
ように建物の一部ずつ所有するというものではありません。
共有名義のままにするリスク
共有分割は、問題を先送りにするだけで多大なリスクがあり、基本的には避けることが望まし
いです。
共有不動産に大規模な修繕をしたり建て替えをする場合、共有者全員の同意が必要です(民法
251 条)。つまり、共有者の一人が反対すると、大規模な修繕工事をできず、建物の改善ができ
なくなります。
また、放置するとさらに問題が大きくなります。共有者の一人が亡くなると、その持分はさら
にその人の相続人へと引き継がれ、共有者の数がどんどん増えていきます。年月が経つにつれ
て面識のない親族同士が共有者となり、全員の合意を得ることが困難になります。
加えて、共有持分を売却する場合には、全体価格を同じ割合で割った場合よりも、20~30%低
くなってしまいます。つまり、他の分割方法に比較して、事実上遺産額が少なくなってしまい
ます。
2. 不動産相続でよくあるトラブル事例
評価額をめぐる対立
不動産の評価額をいくらと見るかは、代償分割の金額や各相続人の取り分の計算に直結するた
め、相続人の間で意見が分かれやすいところです。先に触れたとおり、固定資産税評価額や、
実勢価格などがあり、同じ不動産でも金額に幅が出ます。特に都市部の場合には 1 億円以上の
差が出ることもあります。
不動産を取得して住み続けたい相続人は評価額を低く見積もりたい一方、代償金を受け取る相
続人は高く見積もりたいという立場の違いから、対立が発生します。
実家に住み続けたいが代償金を用意できない
亡くなった方と同居していた相続人が、そのまま実家に住みたいと考えることがあります。こ
の場合には、その相続人が不動産全体を相続し、他の相続人には預貯金を取得してもらうか、
代償金を支払うことになります。しかし、不動産以外の相続財産が不足していたり、代償金に
充てる資産がない場合があります。
このような場合には、いくつかの選択肢があります。
一つは、代償金の支払い手段を探すものです。代償金を分割払いとしたり、不動産を担保にし
た借入れを利用して代償金を用意する方法も考えられます。
次に、配偶者については、自宅に住み続ける権利を確保する「配偶者居住権」という制度があ
ります(民法 1028 条以下)。例えば、不動産は息子が相続するが、配偶者(親)は住み続けら
れるとすることで、後の相続で権利関係が複雑になることを防ぐことが可能になります。
どの方法が適しているかは、相続財産の内容や相続人それぞれの状況によって変わります。
誰もいらない空き家・山林の押し付け合い
こちらは逆に、誰も不動産を欲しがらない場合です。
価値が低かったり、管理に手間や費用がかかったりする不動産(いわゆる負動産)は、誰も引
き取りたがらず「押し付け合い」になることがあります。遠方の空き家や、手入れの必要な山
林などが典型です。所有しているだけで固定資産税や管理の負担が続くため、敬遠されがちで
す。
対応の一つとして、相続放棄があります。自己のために相続の開始があったことを知った時か
ら 3 か月以内に家庭裁判所へ申述することで相続人でなくなる制度です(民法 915 条)。放棄
するとプラスの財産も含めて一切相続できなくなります。
また、2023 年 4 月から「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。これは、相続した土地のう
ち一定の要件を満たすものについて、所定の審査手数料と負担金を納めたうえで、国に引き取
ってもらえる制度です。
ただし、建物が建っている土地や担保権が設定されている土地などは対象外とされており、利
用できるかどうかは個別の確認が必要です。実際には、いわゆる負動産については要件を満た
さないのが実情です。
3. 不動産相続の手続きと注意点
手続きの基本ステップ
不動産を含む相続は、おおむね次のような流れで進みます。
まず、遺言書があるかどうかを確認します。遺言書があれば、原則としてその内容に従って手
続きを進めます。
次に、戸籍を集めて相続人が誰なのかを確定させます(相続人調査)。亡くなった方の出生か
ら死亡までの戸籍をたどることで、把握していなかった相続人が判明することもあります。
あわせて、どのような財産があるかを調べます(相続財産調査)。不動産については、登記事
項証明書や固定資産税の課税明細書などで内容を確認します。預貯金や負債も含めて全体像を
把握します。
相続人と財産が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が何をどのように取得する
かを決めます。話し合いがまとまったら、その内容を「遺産分割協議書」として書面にし、相
続人全員が署名・押印します。最後に、不動産の名義を亡くなった方から取得する相続人へ変
更する相続登記を行います。
2024 年 4 月から始まった相続登記の義務化
これまで相続登記は任意でしたが、2024 年 4 月 1 日から申請が義務化されました。相続(遺言
による取得を含みます)によって不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があっ
たことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から 3 年以内に、相続登記
を申請しなければなりません(不動産登記法 76 条の 2)。遺産分割が成立した場合は、その成
立した日から 3 年以内に、内容に沿った登記をする必要があります。
正当な理由がないのにこの申請を怠った場合、10 万円以下の過料の対象となることがあります
(不動産登記法 164 条)。なお、この義務化は施行日より前に発生していた相続にもさかのぼ
って適用され、その場合は 2027 年 3 月 31 日までに登記をする必要があります。
3 年以内に遺産分割がまとまりそうにないときのために、自分が相続人であることを法務局に申
し出る「相続人申告登記」という簡易な制度も設けられています。これは、それぞれの相続人
が単独で行うことができます。これを期限内に行えば、ひとまず申請義務を果たしたものとし
て扱われます。ただし暫定的な手続きであり、後に遺産分割が成立したら、改めて正式な相続
登記が必要です。
相続税申告の期限(10 か月以内)と特例
相続税の申告と納税には期限があります。相続の開始があったことを知った日(通常は被相続
人が亡くなった日)の翌日から 10 か月以内に、税務署で申告・納税を行います(相続税法 27
条)。この手続きは、遺産分割前でもできます。
まれに、この申告期限を「遺産分割の期間制限」であると主張して早急な(自分に有利な)分
割を強要する人がいるため注意が必要です。
この部分は、税務の専門的な判断を伴いますので、詳しくは税理士や税務署にご確認くださ
い。
4. 不動産の遺産分割を弁護士に依頼するメリット
交渉や調停・審判の代理ができる
相続人同士で意見が対立し、当事者だけでは話し合いがまとまらないことがあります。こうし
た場合に、代理人として相手方と交渉したり、家庭裁判所の遺産分割調停・審判で本人に代わ
って手続きを進めたりすることは、弁護士のみに認められた役割です。報酬を得て他人の法律
事務を取り扱うことは法律で弁護士に限られており(弁護士法 72 条)、たとえば不動産会社や
知人が代理人として交渉に立つことはできません。感情的な対立があるときでも、間に専門家
が入ることで、冷静に話を進めやすくなります。
評価額の算定から売却まで対応できる
不動産を含む遺産分割では、評価額の考え方を整理し、どの分割方法が適しているかを検討す
る作業が欠かせません。弁護士は、必要に応じて不動産鑑定士や税理士、司法書士などの専門
家と連携しながら、評価額の算定、分割方法の提案、換価分割の場合の売却の段取り、登記ま
で、一連の流れに対応できます。それぞれの相続人の事情を踏まえて、現実的な解決策を一緒
に考えていきます。
不動産を含む複雑な相続のご相談について
不動産が絡む相続は、評価や税金、登記など複数の要素が関わり、相続人の人数が多いほど調
整も複雑になります。当事務所では、不動産を含む遺産分割についてのご相談をお受けしてい
ます。状況を整理し、取りうる選択肢をご説明したうえで、解決を目指します。判断に迷う段
階でも、まずはお気軽にご相談ください。
5. 相続人が多数いる遺産分割でお悩みの方へ
相続人の人数が多い遺産分割では、全員の連絡先を把握して話し合いの場を設けること自体に
手間がかかり、意見の調整にも時間を要します。不動産が含まれていればなおさらです。早め
に状況を整理しておくことで、選べる手立てが広がることもあります。不動産を含む相続や、
相続人が多数いる遺産分割でお困りの際は、当事務所までご相談ください。




