- 公開日:2026.07.24
- 最終更新日:2026.07.24
高齢の親が認知症になり判断能力が低下すると、預金の払い戻しや定期預金の解約が難しくな
り、介護費用や施設の入居費用も支出できなくなることがあります。こうした事態にあらかじ
め備える方法として注目されているのが、家族信託(民事信託)です。この記事では、民事信
託の仕組み、優れた 4 つの機能、そして利用にあたっての注意点について解説します。
目次
家族信託(民事信託)とは
民事信託とは、文字通り財産を「信じて託す」という制度です。財産を、信頼できる人に使い
方を定めて預けます。これによって、自身が財産管理をできなくなっても、自身の希望通りの
財産利用をすることが可能になります。認知症対策などで民事信託を利用する場合には、介護
を担う親族などが財産を預かるようにすることが有効です。
なお、民事信託について「家族信託」という呼ばれ方をすることがあります。これは、「一般
社団法人家族信託普及協会」という法人が商標登録をし、民事信託の契約書を作成するにあた
って家族に託す信託を独自商品のように見せているものです。「家族信託」でなければ家族に
託す民事信託ができないわけではありませんし、行政書士が民事信託に優れているわけでもあ
りません。このページでは正式な用語である民事信託という言葉を使用するようにします。
民事信託では、契約によって財産の名義を管理者(受託者)に移し、受託者が契約で定められ
た目的に従って財産の管理・処分を行います。財産の管理権限があらかじめ受託者に移ってい
るため、財産を託した本人の判断能力がその後低下しても、財産の管理や活用が止まらないと
いう点に大きな特徴があります。
家族信託(民事信託)の 3 人の登場人物
民事信託は、次の 3 つの立場の登場人物によって成り立ちます。1 人が複数の立場を兼ねること
もあります。
委託者(託す人)
財産を託す人です。認知症対策の場面では、財産を持っている親がこれにあたるのが典型で
す。委託者は、受託者との間で信託契約を結び、信託の目的(例:委託者の生活・介護のため
に財産を管理する)や、託す財産の範囲、管理の方法などを定めます。
受託者(管理する人)
財産を託され、信託の目的に従って管理・処分を行う人です。子などの家族がなるのが典型で
す。受託者は、信託財産を自分の財産と分けて管理する義務(分別管理義務)や、受益者のた
めに忠実に事務を行う義務(忠実義務)など、信託法上の重い義務を負います。名義は受託者
に移りますが、信託財産が受託者個人のものになるわけではありません。
受益者(利益を受ける人)
信託財産の管理・運用から生じる利益を受ける人です。認知症対策の場面では、委託者である
親自身を受益者とする形(自益信託)が一般的です。
家族信託(民事信託)の 4 つの優れた機能
認知症対策(生前の財産管理機能)
信託契約によって、預貯金(信託用の口座に移した金銭)や不動産の管理権限をあらかじめ受
託者に移しておけば、委託者が認知症などにより判断能力を失った後も、受託者が信託口座か
らの払い戻しや、不動産の管理・修繕・処分を続けることができます。介護費用や施設入所費
用を本人の財産から支出し続けられることは、ご家族にとって大きな安心につながります。な
お、信託契約は委託者本人に判断能力があるうちにしか結べないため、早めの準備が重要で
す。
「成年後見制度」にはない柔軟な運用機能
判断能力が低下した後の財産管理の制度としては、成年後見制度があります。しかし、成年後
見制度は本人の財産を維持することを基本とし、家庭裁判所や後見監督人の監督の下で運用さ
れるため、資産の積極的な運用や組み換え(賃貸物件の建て替え、不動産の売却による資産の
入れ替えなど)は困難です。これに対し、民事信託では、信託契約で定めた目的の範囲内であ
れば、受託者の判断によって賃貸物件の建て替えや売却などの柔軟な財産管理を行うことがで
きます。
「遺言」の代わりになる機能
信託契約では、委託者が亡くなった場合に信託を終了させ、残った信託財産を誰に帰属させる
か(帰属権利者)をあらかじめ定めておくことができます。これにより、信託した財産につい
ては、遺言を作成した場合と同じように、承継先を生前に指定しておく機能を持たせることが
できます。
何代先までも指定できる「連続承継機能」
遺言では、「自分の死後は妻へ」と定めることはできても、「妻の死後はさらに長男へ」とい
うように、二次以降の承継先まで法的な拘束力をもって定めることは困難と考えられていま
す。これに対し、民事信託では、受益者が死亡した場合に次の受益者、さらにその次の受益者
へと受益権を承継させる「受益者連続型信託」の仕組みが認められています(信託法 91 条)。
先祖代々の不動産を直系の血族に承継させたい場合など、遺言では実現しにくい承継の希望を
かなえられる可能性があります。ただし、信託がされた時から 30 年を経過した後は、受益権の
新たな承継は一度しか認められないという期間の制限がある点に注意が必要です。
家族信託(民事信託)のデメリットと注意点
民事信託は優れた機能を持つ一方で、次のようなデメリットや注意点があります。
第一に、身上監護には対応できないことです。民事信託はあくまで財産管理の制度であり、施
設への入所契約や医療に関する契約の締結といった、本人の身の回りに関する法律行為(身上
監護)は受託者の権限に含まれません。身上監護への備えが必要な場合には、任意後見契約や
成年後見制度との併用を検討する必要があります。
第二に、受託者の負担と親族間の信頼関係の問題です。受託者は、分別管理義務や帳簿の作
成・報告義務などを負い、長期間にわたって責任のある財産管理を続けることになります。ま
た、特定の子に権限が集中するため、他の家族への説明が不十分なまま進めると、親族間の不
信や対立を招くおそれがあります。
家族信託(民事信託)のお悩みは当事務所へご相談ください
民事信託は、認知症による口座凍結への備えから、柔軟な財産管理、資産の承継まで幅広く活
用できる制度です。その一方で、契約の設計を誤ると、かえって親族間の紛争や想定外の財産
管理上のトラブルを招くおそれもあります。また、ご家族の状況や財産の内容によっては、遺
言や任意後見契約など、他の制度の方が適している場合もあります。当事務所では、法的な観
点からご家族の状況を丁寧にうかがい、民事信託を含めた最適な仕組みの設計をサポートして
います。認知症への備えや財産の承継についてお悩みの方は、お気軽に当事務所へご相談くだ
さい。




